海老芋

京都産ブランドは「京都えびいも2号」・専用品種は超多収(海老芋05)

この記事では、京都府のブランド栽培用品種「京都えびいも2号」について紹介します。

始まりはウイルスフリー

 京都市内の農家から「門外不出」の優良系統をいただき、産地づくりのため府内の農家に配布したのは良かったのですが、数年たってみたらなぜか生育が悪い株の発生が目立ちます。ひどい株にはモザイク症状も、ってウイルスじゃないですか。

 種子繁殖と違い芋で増やすため、ウイルスに感染してしまうと次世代に引き継がれてしまいます。これを防ぐため、産地では生育初期の段階で発症した奇形株をぬきとっていますが、株が大きくなってから感染した場合は症状がわからなくなります。
 こうして気が付かない内にウイルス感染種芋が広がっていったと考えられま

 そこで京都府の研究機関が打った手がバイオテクノロジーによる「生長点培養によるウイルスフリー化」です。
 生長点というのは植物の新しい組織を作る場所のことで、そこにはウイルスがいないとされています。そのため、ウイルスにかかっている植物でも、生長点だけを取り出して組織培養し植物に再生させるとウイルスのいない体(ウイルスフリー)になっているわけです。

 こうやって作った海老芋の苗はウイルスが抜けていますから、あとはアブラムシを防ぐ採種施設で栽培すればウイルスを持たない種芋を増殖でき、産地の生産力が回復します。

敗者復活で「1号」誕生

 このウイルスフリー化を行っている時、変わった株が出てきました。なんと収量が2t/10a以上に大幅アップする多収系統があったのです。
 生長点培養をカルス経由で行ったため、どうやらカルスからの再分化時に「良い」変異がおこったようです。(大量増殖の時は「苗状原基(多芽体)」で増殖し変異が起こらないようにしています)

*参考「回転培養によるヤマノイモの多芽体増殖」京都府農業総合研究所

 ところが、この株は没になりました。子芋の形が悪かったのです。「こんな寸胴の芋は京都の海老芋じゃない、静岡の海老芋みたいだ」というわけです。
 静岡の農家には悪いですが、当時の京都では「芋の肩が大きくふくらんだのが良い形」と言われていましたから。肩というのは芋の地際部(茎と地面の境)のことで、ここが大きく膨らみ逆三角形の海老芋が良かったのです。なので没です。

 しかし、20世紀も終わりの頃風向きが変わりました。なんと、出荷量を増やしたいのでブランド出荷規格を変えて「寸胴でもOK」にするから、すぐに多収品種を作りなさいとなりました。いまさらですか。でも捨ててしまったはずでは?

 でもだいじょうぶでした。収集した伝統野菜にはすこしずつ違いがみられましたが、これを一本化せず「良くても悪くても遺伝資源として残す」というルールがあったからです。

 さらに大人の事情もあり、伝統野菜の収集で多くの農家を訪ねましたが、どなたも「わしの種が一番」とおっしゃるため、どの伝統野菜ももらった農家名を付けて全て保存していました。例えば「賀茂なす(山田太郎系統)」とかです。

 こうして、細々と残されていた「没系統(でも多収)」をさらに選抜して磨きあげ、品種登録することができました。「京都えびいも1号」の誕生です。

*参考「早生多収なエビイモ栽培用サトイモ新品種候補「京都えびいも1号」」京都府生物資源研究センター、京都府農業総合研究所

1号から2号へバトンタッチ

 「寸胴でも秀」というブランド規格の変更は、市場にも問題なく受け入れられました。ただし、肩の直径は一定の大きさが求められ、足りないと2ランク下の「長」に落ちますが。

 またこの頃に新規格「こえびちゃん」も作られました。「京都えびいも1号」は孫芋・ひ孫芋も劇的に増加するため、商品としての量を確保できる見込みがたったからです。現在では「こえびちゃん」もブランド認証され、農家の売り上げ向上に大きく役立っています。

 「京都えびいも1号」はこれまでと同じ作り方で収量が増えるため、農家も不満なく品種切り替えに応じてくれました。現在は後継品種の「京都えびいも2号」にバージョンアップされ、農家の所得向上にやくだっています。

まとめ

 ウイルスフリー化の過程で生まれた変異株から多収系統「京都えびいも1号」が生まれました。さらに「1号」を改良し「京都えびいも2号」が育成され、現在のブランド出荷品は「京都えびいも2号」が使用されています。

The Kyoto-produced brand is “Kyoto Ebiimo No. 2″—the specialized variety has exceptionally high yields. (Ebiimo 05)

During the virus-free process, a variant strain led to the development of the high-yielding “Kyoto Ebiimo No. 1.” Further improvements to “No. 1” resulted in the creation of “Kyoto Ebiimo No. 2,” which is currently used for branded shipments.