海老芋

京野菜【海老芋】種芋の貯蔵③最適な貯蔵環境(その1)温度と湿度に注意

 このシリーズでは、来年度の栽培の出発点となる種芋の貯蔵について、気をつけるべき3つのポイントを紹介します。今回は、種芋の貯蔵方法についてです。(海老芋39)

最適な貯蔵環境とは

 種芋の貯蔵中に腐ってしまった、というはなしをよく聞きます。腐ったのが「個数」レベルなら対応は簡単です。選別時の「芋肌傷みチェックを厳しくする」に加え、栽培時の秋期の軟腐病発生株からは採種しないことでかなり減らすことができます。

 そして、腐るのが「全部」レベルなら、対応はもっと簡単です。なぜなら、全部腐るなんてことは「人間のやらかし」以外に考えられません。
 つまり、農家が行った貯蔵方法・環境が悪いので全部腐ったからです。

 では、種芋貯蔵に最適な環境とはどんな状態でしょうか。貯蔵環境の基本は「低温・低湿」で、この環境を催芽開始まで積極的に保つことです。

 ところが、最近の謎技術では「高温・高湿」を強く指導しているようですから、その正反対と言っても良いと思います。困ったことですが。

 なお、謎技術を具体的に言うと、「カンショと同じく12℃以下にならないよう寒い場所を避け、乾かないよう肥料袋に密封して湿度100%を保ち、通気筒を付けるので寒気が入ってこないようハウス内に催芽開始まで埋設するなら最高」といった感じでしょうか。
 これでは腐って当たり前です。

(おまけ)
 昔の資料なんかで「掘ったまま株ごと土中に埋める、芋が分離しないよう株は下向け」という記述が今でも見られます。これは謎技術ではありませんが、目的が違います。
 この方法は「種芋貯蔵」ではなく「食用可能期間を延長する技術」のひとつです。たとえば、京料理の「いもぼう」は祇園祭頃まで提供されるので、大きな芋を食味の良いまま保存しておく必要があります。(余談ですが、いもぼうは小さな芋を薄く皮むきするのではなく、大きな芋を分割し涙滴状に細工して使用します)

 それでは、最適環境「低温・低湿」を具体的に紹介しましょう。

貯蔵場所は「6℃の低温」を保てるところ

 海老芋の種芋が好む温度は「6℃~8℃」です。「低すぎる」と感じた方は多いかもしれませんね。これは、晩生品種の唐の芋は低温に強い、言い換えると最適温度が低温寄りになるからです。
 「本に書いてあるのと違う」と言いたくなるのはわかります。でも、その記述の前提は「サトイモ=石川早生」ではないですか。
 海老芋を一般的な早生サトイモと考え、そのテキストをコピペしたりするのは意外とあるあるなパターンです。

 もっとも、食べる芋の保存なら温度が少々高くても大丈夫です。ところが、種芋としての保存は長期になるので、その間に、雑菌や病原菌による腐敗を抑え、頂芽の動きを止めておく必要があります。

 種芋を腐敗させる菌は「10℃」を超えると活動が活発になるので、これより低温での保存が腐敗のリスク減に効果的です。

 また、頂芽は「12℃」くらいから動き始めるので、これより低温での保存が頂芽覚醒のリスク減に効果的です。

 この2つを合わせると、貯蔵には10℃より低くすることが良いとわかります。そのため、一般的なサトイモの種芋貯蔵には8℃~10℃が良いでしょう。

 では、晩生品種の海老芋=唐の芋が好む貯蔵温度はというと、京都府の研究機関のデータでは一般的なサトイモより低いとされています。

 これは京野菜の研究でよくあることですが、実際に試験したとしても「論文書かずに栽培暦に順次小出し直載せ、農家でいきなり実証・普及」パターンが多く、このデータも公開されていないようです。
 他県に教えたくないというわけではなく、現地への普及を迅速に行うことを地方機関は大切にするからです。このような手法を京都府ではタスクチーム活動と呼んでいます。

 というわけで、その研究データによると、海老芋の種芋を貯蔵するためには「6℃」が最適とされています。
 ただし実際の栽培暦では、現地で取り組みやすくするために幅をもたせて「6℃~8℃」との記述が一般的です。(8℃は一般的な晩生品種の適温と言われています)

 では、具体的な貯蔵場所はどんなところでしょうか。その前にまず、ダメなところです。注意するポイントは2つあります。

 まず、いくら低温に近い品種とはいえ降霜にはやられるので、0℃近くまでに頻繁に下がる場所はダメです。例えば、作業場やガレージなど床がコンクリートの場所への直置きです。底冷えという現象がありますからね。

 次に、住居内でも暖房の影響がある場所は、頂芽が動き出しかねないのでダメです。例えば、居間はもちろん時々使う部屋もです。意外と低い温度でも頂芽は動き始めますよ。

 それでは、種芋貯蔵に好ましい具体例を紹介します。それは「作業場で床から浮かせて置く」や「住居内で暖房の影響が無い部屋に置く」です。まあ、ダメな場所の反対ですね。

 このような場所なら、床からの冷え込みを防ぎつつ、頂芽が動かない低温を保ちやすいからです。また、これらの場所では保存場所を設けるのも簡単です。

貯蔵中は「70%の乾燥気味」に保つように

 温度の次は湿度についてです。海老芋の「種芋」が好む湿度は「70%」です。またしても「低すぎる」と感じた方は多いかもしれませんね。

 でも思い出してください。スーパーの野菜売り場の袋入りサトイモは乾いていませんか?袋の中なら湿度100%を保つことは簡単ですから、そうしていないということは乾いている方が鮮度保持に良いからだと思います。
 また、袋に封をしていますから、あまり乾き過ぎるとこれも良くないのでしょう。つまり、海老芋に限らずサトイモの保存には「乾き気味」が良いと言えますね。

  そしてその「乾き気味」とは「湿度70%」が良いと考えられています。
 では、なぜ乾き気味が良いのかというと、「腐敗菌が活動しにくいから」と「発根が始まらないから」が理由です。

 種芋を腐敗させる菌は、芋肌が湿ったり露が付いたりする「湿度100%」に近づくほど活動が活発になります。
 頂芽が痛まないくらいまで低湿(乾き気味)にするのが、腐敗のリスク減に効果的です。

 また、「湿度100%」に近づくと頂芽が動き発根が始まってしまいます。前回説明したように、貯蔵中に発根してしまうと、育苗まで良好な状態を保持することが困難ですから健苗にはなりません。
 発根させないよう(頂芽を動かさないよう)低い湿度に保つのは健苗育成にも役立ちます。

 なお、貯蔵する前の注意点を2つ紹介します。

 1つめは、種芋は貯蔵前に乾かしておくことです。こうすることで、貯蔵場所に余計な水分を持ち込むことを防げ、好適湿度を達成しやすくすることです。

 2つ目は、肥料袋等のビニール袋は密封状態になり結露しやすい(湿度100%)ので、ネット袋や米袋など通気性・吸湿性のある袋の使用です。
 保温性のあるトロ箱も使えますが、湿気易いのでフタはせず、毛布などで覆うなどに変更しましょう。
 なお以上のことから、地下に埋設するなんて全く不適切なことがわかるかと思います。(通気筒を設置しても湿度は下がりません)

 3つ目は、種芋を容器に入れる時は、籾殻などを混ぜて入れ種芋が密着しないようにし、芋同士の接触面の湿りを軽減することです。

まとめと具体的な貯蔵例

<貯蔵環境のまとめ>

 ●保存に適した温度は「6℃~8℃」で、「10℃」を超えると腐敗・発根しやすくなる

 ●保存に適した湿度は「70%」で、これ以上になると腐敗・発根しやすくなる

 ●種芋から水分が発生するので貯蔵場所は密封しない

 ●種芋を入れる容器は、通気性や吸湿性があるネットや米袋を使用する

 ●種芋同士が密着しにくいよう、もみ殻などと同梱する

 ●栽培中に疫病等の土壌病害が多発した場合は、病原菌別に対策を行う

 ●種芋の保存中も作業を行うので、取り出しやすい方法・場所を選定する(次回で説明)

<プロ農家の保存例>

 ➊収穫・荒選別後は、種芋が傷まない程度に土を落とし、表面の水分を飛ばしておく

 ➋種芋にもみ殻を加えつつ、ネット袋に選別種類ごとに小分けして入れ、防水ラベルを添付

 ➌米袋など水分を吸収する丈夫な紙袋に小分けしたネット袋を入れ、さらにもみ殻を加える

 ➍米袋の口までもみ殻を詰め、袋の口は閉じない

 ➎作業場の床から浮かせた状態で米袋を立てて並べ、上から毛布をかけてておく

 ➏ネズミなどの被害を受けないよう、対策を講じておく

Kyoto Vegetables – Ebi-imo: Seed Tuber Storage (3)
Optimal Storage Conditions (Part 1): Managing Temperature and Humidity

In this series, we introduce three key points to keep in mind when storing seed tubers—the starting point for next year’s cultivation.
This installment focuses on the proper methods for storing seed tubers.