この記事では、「催芽処理」の具体的な方法について、京都府の育苗農家で行われているものの中から、良い実績を上げている実例を紹介します。(海老芋43)

最も簡単なのは「育苗機」利用
最近の水稲農家では自家育苗が減っているため、昔はたいてい持っていた「育苗機」を見かけなくなっています。しかし、海老芋の催芽処理には最も手軽な機材なので、中古で良いので手に入れることをお勧めします。
*参考・水稲育苗機の例(NZ-A180・石井製作所)
●加温は変温管理
育苗機内の温度は「25℃→20℃」の変温管理を実施します。具体的に言うと「頂芽のスタートスイッチをONにするため25℃で加温し、動き出したなら20℃に下げゆっくり伸ばしていく」です。
実例によると、頂芽が動き出すには25℃なら3日くらいで十分ですが、機械や設置場所の違いによりもう少し長くなる場合もあるようです。思ったより早く動き出すので、3日たった頃から育苗機内の観察を怠らないようにしてください。
頂芽はなかなか動き始めないですが、動きさえすれば後はどんどん伸びていきます。しかし、25℃のまま加温を続けると、芽は徒長気味に伸びてしまいます。ヘタすると1枚目の葉が開いてしまいますから、この状況はいけません。

そのため、伸びを抑えるため20℃に低下させる変温管理が必用となります。こうすることで、芽の動きがおとなしくなり、太くしっかりした芽に仕上がります。
ただし、予定が遅れてしまい、早く伸ばしたい時は温度は25℃のまま管理しましょう。
●ビニール袋で密封
加温については、育苗機の得意とするところなので簡単です。しかし、この機械にはマイナス要因があり、それは育苗機の加温方法が「水蒸気」を用いること。
水蒸気が種芋に直接当たってしまうと、発根が始まってしまいます。これは防がなくてはいけません。
では、どうやって水蒸気を寄せ付けなくするかですが、実は簡単。種芋をビニール袋に入れて密封し加温すれば良いのです。
使用する袋は、どんなビニール袋でもかまいませんが、中に湿気が入り込まないものを使います。なので、水蒸気を通すような高機能の袋は逆効果なのでダメです。
ただし、このような密封性の高い袋ですから、長期間閉じたままでは酸欠になります。なので、毎日~2日おきに封を開けて袋の中に新鮮な空気を入れてください。
なお、袋に入れず育苗機を使用している農家を見かけますが、2パターンあるようです。どちらも良くないので、悪い事例として紹介します。
1つ目が「根が出ても伸び過ぎない内に育苗鉢に植付ければよい」というもの。たしかに丁寧に植付ければ痛みは少ないかもしれませんが、頂芽より根の方が早く動き出すため「頂芽の長さが足りず、植え付け後の地上部生育が遅れる」ことは問題です。地上部と根部のバランスが悪いまま育苗するため、健苗育成が困難です。
2つめが「加温は夜間のみとし、根が出ないよう昼間は加温せず、被覆を外し種芋を乾燥させる」というもの。一見良さそうに思いますが、加温状態が少ないため頂芽の動きが不規則になります。さらに毎日の管理作業が必要なので、300時間/10aを目指して進めている省力・軽労化に反する方法です。
「育苗床」があるならピアレスが便利
育苗用に準備したハウスを「3月から使用できる」方は、育苗床をもっと早く設置して催芽処理に活用することができます。
なお、育苗床の設置方法について詳しく書くとボリュームがある内容になるので、この記事では催芽処理を行う時の注意点についてのみ紹介します。

●温床線または温床パッドの湿りを侵入させない
育苗床を加温するため、床部分には温床線や温床パッドが「土に埋まった状態」で設置されています。
そして、土が乾いていると熱を伝えにくいため「土は湿らせて」あるはずです。
そのため、加温を開始するとどうしても水蒸気が発生してしまいます。通常の育苗ならあまり問題となりませんが、催芽処理を行う場合には乾燥状態が大切なので困ってしまいます。

そこで、育苗床を設置する時に必ず行ってほしいことがあります。それは、床に敷きつめた土を「ビニールで覆い、端を育苗床の外に出しておく」こと。
こうすることで、温床線等に暖められた土から発生する水蒸気を、育苗床の外へ出すことができます。
なお、最近育苗時に行っている方を見かけたので書きますが、ビニールを敷くことで苗を湛水管理できるようになります。そして実際に湛水してしまうのです。
育苗鉢を育苗箱に入れるのは、下に直管を置いた時「まとめて浮かせる」ことができるからです。淡水なんかしたら、鉢底の穴から根が出てきてしまいます。ダメですよね。
いやいや鉢穴には新聞紙を当てているので根は出ないよ、と言う方もいますが、そもそも育苗鉢の中には培土以外入れてはいけないのでダメです。
●温度管理を楽にするピアレスフイルム
催芽処理の温度は「25℃⇒20℃」の変温管理が必用です。ところが、ハウスに太陽が照り付けてくると、育苗床内の温度をどんどん上げていってしまいます。
育苗開始後なら少々の高温へのブレは影響しませんが、催芽処理は「育苗時より低い温度」で行うため、この温度上昇は限度を超えるので困ったことになります。
そのため、育苗床の上にシート等をタープのように張って遮光し、温度上昇を防ぐ必要があります。
さらに、太陽の動きに合わせて展開位置を動かす必要もありとても手間がかかります。
そこでお勧めしたい資材が、銀色に光る「ピアレスフイルム」です。水稲育苗ではすでに一般的な資材なので、お持ちの方も多いと思います。
この被覆資材はお高いだけありとても高機能なので、海老芋の催芽処理でも活用できるのです。

このフイルムで育苗床を覆うと波長選択性により「保温と遮熱」ができます。遮光ではなく遮熱というのがポイントです。
つまり、遮熱とは2つの効果を意味しています。1つ目は、太陽からの熱(赤外線)を大幅にカットし育苗床が高温になるのを緩和できること。2つ目は、良い感じの光(植物に必要なブルーの光質を中心とした光線)は通すので頂芽が動き出した後の徒長を防ぐことができることです。

ピアレスフイルムは高価な資材ですが、高い耐久性があるのでコスパの良い資材です。まだ持っていない方は、高温対策などの補助金を活用して導入を図ってみてはどうでしょうか。
*参考・ピアレスフイルムとは(日本ピアレス工業株式会社)
“For Kyoto vegetable Ebi‑imo, two recommended methods are used for pre‑sprouting treatment prior to transplanting.”
In this article, we introduce specific methods of pre‑sprouting treatment, highlighting successful examples currently practiced by seedling growers in Kyoto Prefecture.
