万願寺とうがらし

早取りするなら接ぎ木しない・自根の力を信じよう(万願寺とうがらし01)

この記事では、万願寺とうがらし早期出荷のヒントを紹介します。

「耐病性」台木が人気です

 万願寺とうがらしの収量を上げるため接ぎ木苗を定植するのがが一般的になっています。使用する台木にも流行があり、選定基準は「疫病」や「青枯病」に強い品種が好まれています。
 現在の主力品種は、従来の「ベルマサリ」から、より耐病性の強い「台パワー」等に変わっていきています。

 特に「青枯病」は発生が始ってしまうと対策が打ちにくく、圃場変更を検討しなければなりません。しかも圃場への菌持ち込みを注意すれば発生しないかというとそうでもなく「新築ハウスの発生原因を調べてみたら地下水で移動してきた」という事例もあり油断できません。
 そのため青枯病抵抗性台木が重宝されるわけです。

*参考「品種詳細 台パワー」農研機構

「耐病性」と「多収性」は違います

 ところが「台パワー」には「耐病性は高いが収量は低い」という弱点がありました。健全に育っても収量が落ちたのでは、人気が低下するのもわかりますね。
 しかし最近では、着果率の低さや草勢低下など低収原因を改善した新台木が登場し転換が始まっています。「台パワー」も後継品種の「台パワーZ」にバージョンアップされました。

 またタキイ種苗の「グランバギー」も注目品種ですが「万願寺とうがらし」に近い「伏見とうがらし」との親和性が低いらしいので残念です。

*参考「草勢が落ちないピーマン台木といえば⇒グランバギー」タキイ種苗

「多収性」と「早期取り」は違います

 では「耐病性と多収性を持つ品種」なら良いかというと一概にはいえません。もうけたい気持ちには「たくさん取って」だけでなく「早く取って」もあるからです。
 多収をうたっていても「低単価の初夏にたくさん取れるから全体収量が多い品種」というのはもうかるのでしょうか。
 なので「単価の高い春から出荷できる品種」の方が農家は喜びますよね。つまり「多収性」に加え「早取りできる」品種が求められているわけです。

 しかし、ここで厄介なのは「接ぎ木苗は収穫開始が遅れる」ことで、その原因は「春の根の張り」にあると思います。
 万願寺とうがらしは春のまだ寒い時期に定植されます。いくらマルチをしていても、露地は当然ハウス内でも地温は低い状態です。
 一方、台木の育成方法にもよりますが育成過程で「南方系とうがらしの血」が入っているとしたら春の低地温下では活着やその後の根の張りが抑えられるのではないでしょうか。このパターンはけっこう育種あるあるです。

 昭和の頃、まだ万願寺とうがらしの接ぎ木が始まる前に、大学の先生が東南アジアから病気に強いとうがらしを手に入れました。「これを親に台木品種を作ったらいいかも」というわけでしたが、病気に強いものの収量が思ったように伸びませんでした。
 この時も、東南アジアにはえていた植物は日本の地温の低さに驚き、根の張りが遅々として進まなかったのです。

 なので、低温情況下に「多収をうたってるけど南方系の血が入った品種」を定植しても根を広げるのは困難で、それは早取りできないことにつながるでしょう。

「早取り」するなら「自根苗」

 ではどうすればいいかというと、接ぎ木はせず「自根苗」を定植することです。
 万願寺とうがらしは「舞鶴の気候風土の中で伝わってきた野菜」ですから「春先の低地温は想定内」です。「京の伝統野菜に準じるもの」の看板は伊達ではありません。

 ただし注意しなければいけないのは「全部自根」にはしないことです。昭和の頃の万願寺とうがらしは「稲刈りには終わり」の野菜でしたから、全部の株を自根にしてしまうと「長期取り」できなくなり収量が激減してしまいます。
その正解は「どのくらいの量を早出しにするかで決まる」です。基本は「長期取り」としつつ高単価の「早取り」を組み合わせた栽培計画がたいせつです。

 最後に新型台木の「台パワーZ」についてです。お勧めするかというと、この台木には懸念材料が2つあるのであまりおすすめめはしません。

 1つ目は、「台パワー」の注意書きに「自根栽培に比べて初期生育はやや遅くなる」とあるからです。その後輩ですから初期生育に不安があります。

 2つ目は、多収の売り文句に「収量は台パワーを利用した場合より多く、自根栽培した場合とほぼ同等です」とあるからです。「自根と同じかいっ」といわざるを得ません。

まとめ

 万願寺とうがらしの台木には「耐病性・多収性・早取り性」が求められますが「早取り」についてはまだまだ実力不足です。その代替策として、定植する一定の割合を「自根苗」とし高単価の「早取り」も行えるようにします。

If you want an early harvest, don’t graft—trust the strength of the natural roots. (Manganji tōgarashi 01)

The rootstock for Manganji pepper needs to have “disease resistance, high yield, and early harvest capability,” but its performance in “early harvest” is still insufficient.
As an alternative, a certain percentage of the transplanted seedlings are grown as “own-root seedlings,” allowing for high-value “early harvest” production.