万願寺とうがらし

京野菜【万願寺とうがらし】めざせ1億円・直前で失速したワケ

この記事では、万願寺とうがらし産地を作った舞鶴市の取組みを紹介します。(万願寺とうがらし02)

増え続ける生産量と販売金額

 「万願寺甘とう」がまだ舞鶴市だけで作られていた頃のはなしです。
 舞鶴市は、戦後まもなくは「引き上げの町」としてにぎわい、瞬間的でしたが40万人いたのではないかともいわれています。

 近年人口が減りつづけていますが、そうはいっても京都府では大きい方の町なので農産物が地産地消される下地がありました。そのため市内には都市農業的な近郷野菜の産地がいくつもあり、公設市場をとおして市内で消費されていたようです。
 万願寺とうがらしもそんな近郷野菜の一つとして「西舞鶴の万願寺」で細々と作られていました

 1980年代に入ると、由良川沿いの「舞鶴市の加佐地域」で栽培面積が増えつつありました。自然災害からの復興策のひとつとして新規栽培者をつのったからです。
 また同時に、「京の伝統野菜」のトップを切って販路開拓が行われたことで「舞鶴市の特産野菜になるのでは」との期待もふくらんでいきました。

 この動きは市内全体につたわり、栽培どころか食べる習慣がほとんどなかった「東舞鶴」でも産地ができ、部会には16の支部ができました。(舞鶴市の農業地区は東舞鶴・西舞鶴・加佐の3つに大別できます)

1億円目前で失速

 さらに、1989年に発足した「京のブランド産品」でも他の有名京野菜とならんでブランド認証されました。こうして、生産量がよそで売るほど増え、ブランド認証されて市場も拡大されました。

 ブランド化から10年後の1999年には売上9100万円となり、1億円が見えてきたことで農家の栽培にも力が入っていきました。

 ところがなんということでしょう、次の年は天候にも恵まれた良い年にも関わらず8700万円に激減したのです。ノストラダムスの大予言が遅れてやってきたのでしょうか。そんなわけありません。

 これまで推進してきた栽培方法に「大きな欠点が4つあった」のです。それは「3月定植」「全着果」「短期取り」「U字整枝」でした。

4つのカイゼンで1億円達成

 「3月定植」とは、単価の高い5月に出荷するため「慣行の4月ではなく3月に定植」することです。京都府南部の山城地域ならわかりますが、舞鶴は北部なんですから活着しますか?これは無理でしょう。

 さらに「ベルマサリ」に接ぎ木してあるため自根より活着が遅れ、株の動きも止まっているように見えます。なので、大きくならないなあと思って株を持ってみると、すっぽんと根鉢が抜けたという方もいました。

 というわけで、無理な早植えはやめて、「4月定植に戻す」こととなりました。

 「全着果」とは、これも5月出荷のためのもので、どんな形の果実でも「全部ならせて大きくして出荷」しようというものです。初出荷のニースをよく見ると「曲がりすぎの優品」がせっせと袋詰めされてたりします。
 その時取れるのは「活着直後の株に無理やりならせた果実」なので、果実は大きくても秀品率が低くなります。まあ単価が高いので「優」でももうかるのでしょうけど。

 しかし、こういうことをしてしまうと「株の着果負担が激増」します。その影響は以後の着果状況に出てくるため、次の収穫までひどく間が空きます。次の収穫でも同じことをやると「着果する時としない時の差が激しくなる」パターンが定着してしまいます。つまり「出荷量の山と谷ができる」のです。

 こんな株は「谷の時は出荷ゼロ、山の時は着果過多で生理障害」になりやすいです。もうかる気がしませんね。しかもハウス全体、いや舞鶴全体でこの波があらわれますから、市場が歓迎する連続出荷が達成できなくなり産地イメージが傷つきます。

 この解決策は「曲がった果実はまっすぐにならないので摘果する」ことです。余談ですが、小さい時に曲がっていても大きくなればと考えましたがダメでした。さらに曲がった果実の先に重りをつけてみましたがまっすぐにはなりませんでした。

 摘果により秀品のみの出荷となり減収しますが、活着後の根量増加まで樹勢を維持することで山谷発生を防止できます。
 というわけで、山谷をつくらせないよう「曲がり果は小さいうちに摘果」の励行をすすめました。

 「短期どり」とは、9月のいそがしい稲刈り前に終了する作型です。9月以降は春先の再来みたいに単価が上がってきます。この時期に出荷しないのはなぜでしょうか。

 それは、お盆を過ぎたあたりから果形が乱れて秀品率が激減し、過繁茂ジャングルで選定が追い付かず、尻腐れ症も多発するため、9月以降は栽培してももうからないので「稲刈りに専念した方がよいという判断」から来るものでした。

 しかし、その対策は簡単です。すべてのわざわいが管理技術の間違いからきていたからです。
 というわけで、管理技術の修正として「秀品率低下を防ぐ樹勢の維持」「過繁茂にならないよう整枝法を変更」「尻腐れ症が出にくい栽培環境づくり」に取組み「長期取りによる出荷額上乗せ」を達成しました。

 「U字整枝」とは、4本の主枝をふところを広げながら真上方向に誘引する整枝法です。しかし、この整枝法では「激しく徒長する」ため減収してしまいます。

 果実の量は側枝の量で決まりますが、側枝の量は主枝の節数で決まります。そのため、主枝を徒長させてしまうと節数が減り減収するわけです。
 徒長した草姿は立派に見えますが(じっさい良い生育でしょうと自慢する方もいました)減収の兆候と見るべきでしょう。

 というわけで、整枝方法を「万願寺甘とうのおとなしい性質にあう簡易V字整枝」に変更し徒長を防ぎました。

 この4つのカイゼンを行ったところ、次の年にはV字回復をはたし1億200万円と大台を突破することができました。

 しかしこのV字回復は、技術の良さではなく、農家にやる気と真面目さがあったためカイゼンのコツを聞いただけで理解し大台突破を達成できたのだと思います。

*参考「グルメ・お土産 万願寺甘とう」舞鶴市公式ホームページ

もっと万願寺とうがらしの記事を読みたい方はこちら⇒summary article

まとめ

 万願寺とうがらしで販売額を向上させるには4定植」「小果で摘果」「長期取り」「簡易V字整枝」が有効です。

Aim for 100 million yen—the reason for the last-minute slowdown. (Manganji tōgarashi 02)

To increase sales revenue for Manganji pepper, the following techniques are effective: “April transplanting,” “fruit thinning at a small size,” “long-term harvesting,” and “simple V-shaped pruning.”