この記事では、万願寺とうがらし栽培の全体像を実践的に把握できるよう、京野菜のプロが行っている栽培技術を栽培暦の形で紹介します。(万願寺とうがらし18)

基本情報
目標収量 :400kg/a、4.4kg/株
栽植密度 :約90株/a(うね幅:1.8m、株間:60cm)、間口7mのハウスなら3うね
品種 :京都府ブランド農家(JAにのくに管内)は「京都万願寺2号」
ブランド出荷:下記の京都こだわり農法を必ず実施する
有機質資材施用:良質な堆肥 200~500kg/a
化学肥料低減 :化学肥料由来窒素成分量 5.62kg/a(長期栽培)
化学農薬低減 :成分使用回数 23回(長期栽培)
作型 :整枝・着果管理により、晩秋まで樹勢を維持し、長期取りを行う
ハウス栽培(定植4月上旬、収穫5月下旬~11月下旬)
施肥 :「万願寺とうがらし施肥基準」の最新版を参照
防除 :「万願寺とうがらし防除指針」の最新版を参照

土づくり :「完熟堆肥」200~500kg/a、「苦土石灰」10kg/a(好適PH6.0~6.5)
育苗 :長期取りに適する接ぎ木苗を使用する
定植 :マルチ内に潅水チューブ2本を設置したうねに行う
活着促進のため、定植後は仮支柱で支え、不織布トンネルで保護する
トンネル被覆資材は、透光性の良い「パオパオ90」を用いる
整枝 :トンネル除去後から誘引を開始し、簡易V字整枝で樹形を整える
施肥 :基肥:「CDU燐加安S682」16kg/a(全層施用)
追肥:「くみあい液肥2号」300倍✕42回まで(潅水チューブ、200ℓ/回程度)
病害虫 :専用防除指針を参考に、予防防除を基本とした体系防除を実施する
生理障害 :尻腐れ症を防ぐため根量確保(広うね)と樹勢維持(誘引・摘果)に務める
収穫 :果実(秀)は長さ14~17cmで曲がりの軽微なもの
栽培技術① 長期取りを支える圃場づくり
●土づくり資材(堆肥、石灰)は定植1カ月前までに施用し腐植補給とpH矯正を行います。
●基肥を全層施用し、広く高い排水性の良い蒲鉾型うねに成形します。
うね上に、潅水チューブを2本設置した後、マルチで被覆します。
潅水チューブの配管は、水圧が均一になるよう、ループ状に接続します。
ハウス内配管の途中に立ち上がりを設け、蛇口と液肥混入器を設置します。
栽培技術② 活着促進で初期生育を確保
●株間60cmとし、ホーラーで苗鉢より大き目の植穴を開けます。
●苗を植える前に3本の主枝を決め、2本の側が連続しないよう互い違いに植えます。
●植穴にアザミウマ防除の粒剤を入れ、株元が埋まらないよう、浅めに定植します。
株の周囲にドーナツ状の溝を掘り、掘りあげた土でマルチの穴をふさぎます。
株に仮支柱を添えるとともに、誘引開始まで不織布トンネルで覆います。
●定植後は、天候に合わせて温度管理を行うため、適宜ハウス側面を開閉します。
不織布トンネルは、防風のため被覆したままとします。
活着するまでの潅水は、株元ではなく、ドーナツ溝に手潅水で行います。
●主枝の分枝部より下から発生するわき芽は、樹勢維持のため早期に除去します。
この時除去するのは、わき芽だけで、葉は除去しません。
栽培技術③ 活着後の樹勢維持管理
●活着後の潅水は、手潅水から潅水チューブに変更します。
潅水量の目安は200~300ℓ/aですが、株の大きさや天候により増減します。
●樹勢を維持するため、2番果が着果したら1番果を摘果します。
●2番果の肥大が始まれば追肥を開始し、施用間隔は10日に1回が目安です。
追肥は液肥を使用し、潅水チューブで潅水と同時に実施します。
1回の1a当り追肥量は「くみあい液肥2号」を300倍で200ℓが目安です。
京都こだわり農法により、長期栽培の施用回数は42回以内とします。
●初夏までの害虫防除は、スリップス⇒タバコガ⇒アブラムシの順に行います。
農薬散布を行う時は、果実の汚れ(白い微粒子)を防ぐため、専用の展着剤を混和します。
栽培技術④ 簡易V字整枝で省力管理
●支柱は、トンネル除去と同時に誘引を開始できるよう早めに立てておきます。
1.8mの支柱を2株ごとにうね両側に設置しますが、うね端と5本に1本は太い物を使用します。
●支柱間に太い番線(又は細い直管)を2段張りします。
1段目は分枝部から見て45~60度斜め上方の高さに、2段目は1.5m程度の高さに張ります。
誘引ひもは分枝部に締め付けないよう結び、1段目の番線を経由し2番目の番線にくくります。
誘引ひもは主枝の数だけ張るので、分枝部から1段目の番線に向けて3本を設置します。
●主枝3本を誘引ひもにからませ斜めに誘引します。主枝が下を向かないよう定期的に行います。
主枝が1段目に達したら、次は2段目に向けて垂直に誘引していきます。
2段目に達した主枝は、自然に芯が止まるので放任でかまいません。
●側枝は放任を基本とし、過繁茂時のみ剪定しますがルールはありません。
うね中央部は繁茂しやすいため、適宜剪定を行いV字の谷を維持します。
●なお「主枝1本整枝」については、伏見とうがらしの栽培暦を参考にしてください。
栽培技術⑤ 夏を乗り切る梅雨・猛暑対策
<梅雨対策>
●梅雨入り前に排水路を点検し、排水が滞りそうな場所は修理しておきます。
ハウス周辺は排水路を含めビニール被覆を行い、ハウス内への浸透を防ぎます。
排水路は深さより勾配を重視し、滞水を防ぎます。
●樹体により横方向の空気の動きが遮られ過湿になるので、縦方向の換気(妻換気)を行います。
サイド換気は効果が無くなってくるので、降雨状況により閉じてもかまいません。
入口ドア以上の高さまでの妻面をネットに張り替えると、空気が縦方向に動きます。
株元は過湿になりやすいので、古葉を除去し風通しを良くします。
降雨時は妻窓を昼夜問わず開放します。(タバコガ飛来防止のためネット被覆は必須です)
●着果量が増え樹勢が衰えやすくなるので、曲がり果等の奇形果は見つけ次第摘果します。
葉色やめしべの長さなどを観察し、肥切れが見られたら追肥間隔を狭めます。
●病害虫の発生は、ほとんどが梅雨の間に起こるので、本格的な予防防除を開始します。
特にハダニとうどんこ病は梅雨に発生するので、手遅れにならないよう防除します。
<猛暑対策>
●梅雨明け後は、強日射緩和のため遮光資材でハウスの天井を覆います。
被覆資材は、遮光ではなく遮熱の高い資材を用います。(遮光率20~30%+遮熱率90%)
秋に被覆を続けると逆効果になるので、9月に入れば天気予報を見て除去します。
●梅雨と同様に妻換気重視とし、夜温低下を図り、尻腐れ等の生理障害を防ぎます。
ただし、秋になればビニールでネット部を塞ぎ、夜温を高め果実の肥大促進を図ります。
●細霧冷房は、妻換気と併用しないと逆効果です。
導入する場合は、秒単位で噴霧ができる資材を選定します。
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