この記事では「万願寺とうがらし」のハウス栽培で取り組むべき高温対策について紹介します。第1回は「側面換気」より劇的に効果がある「妻面換気」についてです。(万願寺とうがらし19)

「長期取り」には「高温対策」が必須
「万願寺とうがらし」を長期栽培するためには、夏の高温を乗りきることが必須になります。そして、ただ乗り切りだけでなく「高温期でも収量・品質を確保」することが重要です。
花粉の活力は、20~30℃が適温とされており、33℃を超えると奇形リスクが高まり、35℃を超えると死滅リスクが高まります。そのため、ハウス内が33℃以上にならないような「高温対策」が必要です。
この「高温対策」でまずやるべきことは「換気によりハウス内の温度を下げる」ことです。ハウスの天面被覆で「太陽光を遮る」ことも大切ですが「夜間の温度を下げる」ことはできません。猛暑日は「夜になってもハウス上部が40℃のまま」というハウスが増えており、こんな環境では着果してもほとんどが「曲がり果」になってしまいます。
まずは「昼も夜も温度を下げる技術」から導入しましょう。その技術が(最近なぜかおろそかにされている)「妻面換気」です。
側面換気と妻面換気の違い
では、まず「側面換気」と「妻窓換気」の違いについてです。
「側面換気」とは、ハウスの側面のビニールを巻き上げて行う方法で、ほぼ全てのハウスに設置されています。この方法の利点は、ハウスの前ら奥まで一気に開口部を作り内部環境を短時間で変化させられること、開口部の幅を変えることで温度・湿度の細かな調節できることです。
しかし、巻き上げ上限より上の環境を変化させにくいという弱点も持っています。これを解消しようとすると、ハウスの天にまで巻き上げる方法がありますがかなりのコストがかかります。
さらに万願寺とうがらしのような果菜類を栽培する時には「横方向の空気移動ができなくなる」という大きな弱点が加わります。
果菜類は、樹体が小さいうちはよいのですが、梅雨頃から伸長・繁茂が加速され「うねの数だけ垣根」ができてしまいます。
こうなると、側面から側面への空気移動が阻害されてしまい、換気機能が大きく低下します。さらに、ハウスは数棟を横に並べて立てることが多いので、ハウス内の空気が長時間動かなくなってしまい、風が弱い日では高温状態が夜中まで続いてしまいます。
つまり「側面換気」だけでは夏を乗りきれないということです。
ではどうすれば良いのかというと、もう一つ換気方法を追加するのが正解です。
その換気方法が、ハウスの手前と奥の妻面で行う「妻面換気」です。この方法なら「垣根にそって縦方向に空気が動く」ので、ハウス内の高温空気が排出されやすくなります。
「妻窓換気」と「妻面換気」の違い

次に「妻窓換気」と「妻面換気」の違いについてす。
うちは「妻面換気」もしてるから大丈夫という方が近年激増しています。ところが、高温障害も激増しています。なぜ高温対策になっていないかというと、そういう方はたいてい「妻窓」を付けているだけだからです。
確かに「京都こだわり農法」では「妻窓」を推奨していますが、この資材は主に「葉菜類に使用」するものです。「果菜類の高温対策」に使うなんて書いてありません。
水菜や九条ねぎなどの葉菜類は周年栽培が基本ですが、問題となるのは高温や低温ではありません。(ハウスを水稲育苗にも利用するからというのはさておき)
草丈が小さいので株周辺が高温にならない、もともと冬を得意とする野菜なので低温に強いなどの理由から「妻窓は夏は全開、冬は全閉」です。
「妻窓」は「気温の日変化や空中・土中の過湿」の対策資材で、稼働させるのは「春と秋」になります。
では果菜類に付けている方も多いのはなぜでしょうか。そのわけは「降雨時の過湿対策」のためです。その証拠に妻窓は下から開きます。これは降雨時でも湿度管理を行うためだからです。高温対策ならふつう上から開けますよね。
梅雨や秋雨の時期はハウス内の過湿が続くため、徒長や病害虫(うどんこ病・ハダニなど)が発生しやすく、対策しないとリスクが高まります。
さらに降雨時は、側面換気の開口部を大きく開けると雨が入ってきて土壌も過湿となり地下部の生理障害を助長してしまいます。
そのため、降雨時でも湿気を逃がす目的で果菜類でも「妻窓」が導入されているわけです。
では「妻面換気」とはどんなものなのでしょうか。それは読んで字のごとく「妻面全体を使い外気を出し入れ」するものです。
「妻窓」のように妻面の一部だけに開口部をつくるのではなく「妻面全体が開口部となるよう防虫ネットを張る技術」のことです。

「妻面換気」の実際
ハウスを建てる時には必ずパイプにフィルム止め資材を装着します。一番有名なのが「ビニペット」ですが、お勧めは溝深めで多重張りできる「オキペット」です。
ハウスのビニールをこの資材の溝に入れ「スプリング」というジグザグになった針金で固定します。
通常はビニールだけを固定しますが、「高温対策」では妻面に防虫ネットを張るため多重張りします。「高温対策」の場合、ビニール2枚+防虫ネット1枚の3重張りとなります。そのため「オキペット」の方が張りやすいですが、資材の厚さにより「ビニペット」でも可能です。
張る順番は次のとおりです。
①換気する開口部分を決めます。
妻面全てを開口するには専用資材が必要なので、直線で囲まれた部分を設定すると良いでしょう。
ハウス上部は熱気がたまりやすいため、なるべく上部まで開口するようにしましょう。
②開口部内側のビニールを切除します。
切除しても「スプリング」によりビニールは固定されたままです。
③防虫ネットを張ります。
開口部より少し大きめに切った防虫ネットを、新しい「スプリング」で止めていきます。
「オキペット」は深溝なため、2本目も余裕で入ります。
④ビニールを上から張ります。
開口部より少し多めに切ったビニールを、新しい「スプリング」で止めていきます。
「オキペット」は深溝のため、3本目も余裕で入ります。
*参考:軟質フィルム止めシリーズ(東都興業株式会社)
フィルム止め資材のビニペットやオキペットを開発・販売しています。

なお「高温対策」を行う手順は次のとおりです。
①定植時は、防虫ネットとの上のビニールも張ったままとします。
2重被覆により保温効果も上昇します。
②梅雨の時期は、「過湿防止」のためビニールを外します。
雨が入ってくるような振り方の時は、ビニールを張り戻します。
③梅雨明け後も、「高温対策」のため防虫ネットのままとします。
台風など強風が吹く時は、ビニールを張り戻します。
④秋に入っても、「残暑対策」が必要な年は防虫ネットのままとします。
残暑が収まったなら、ビニールを張り戻します。
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まとめ
「万願寺とうがらし」を長期栽培する時は「高温対策」が必須です。まず取り組む対策は「妻面換気」です。これにより、ハウス内の気温を昼間だけでなく夜間も下げることができます。妻面にできるだけ大きな開口部を作り、縦方向の空気の動きを助けましょう。
“Kyoto Vegetable Cultivation: High Temperature Management for Manganji Sweet Pepper—Begin by Ventilating the Downwind Side”
When cultivating Manganji Sweet Peppers over an extended period, implementing high-temperature countermeasures is essential. The first step is gable-end ventilation. This helps lower the temperature inside the greenhouse not only during the day but also at night. Create the largest possible opening on the gable end to promote vertical airflow.