この記事では「万願寺とうがらし」のハウス栽培で取り組むべき高温対策について紹介します。第2回は、安価だけれど問題の多い「遮光」ではなく、最新資材を使った「遮熱」を勧める理由について説明します。(万願寺とうがらし20)

「遮光」資材では高温対策になりません
最近は高温対策向けの補助金も出るようになってきており、これを利用して強力な「遮光」資材でハウス天面を被覆する方も多いようです。
京都府の万願寺とうがらしでは「30%遮光」の「ダイオクールホワイト」被覆が推奨されていましたが、この資材では高温対策には不十分だという不満が出ていました。
そこで「45%遮光」する被覆資材に変更する方が増えているようです。しかもこの資材は意外と安価でコスパが良さそうです。
しかし「ダイオクールホワイト」がなぜ推奨されてきたのでしょうか。昔はもっと涼しかったから「30%遮光」でよかったのでしょうか。そんなわけはありません。
なぜなら、万願寺とうがらしを徒長させず健全に生育させるには「30%遮光」が限界だったから。なので、栽培暦には「梅雨明けから被覆を開始し、9月後半には除去する」と書いてあるわけです。
「今年は6月から猛暑で9月以降も猛暑」という理由から「45%遮光」で長期間被覆してしまったら、制御不能の徒長が進行してしまいます。
さらに徒長を助長する「平面整枝」が増えていますから現場は混乱するばかりでしょう。そんな状況からか、最近は「主枝が誘引上端まで達したら元まで切り戻し」が指導されていると聞きますが、これでは泥縄もいいところです。
徒長して節数が減少しているのに加え、弱勢台木なのに切り戻してしまったのでは再生に時間がかかり大きく減収します。万願寺甘とう産地で20年以上実績がある「ダイオクールホワイト」に戻し、他の対策を追加した方がよいでしょう。
*参考:プロ向け遮光ネット「ダイオクールホワイト」(イノベックス)
かぶせ茶の資材として有名な「ダイオネット」のメーカーです。
しかし、「遮光」の最大の問題は別にあります。「遮光」資材に否定的な記事を書く理由はここです。それは「光を45%遮るけれど、赤外線は45%しか遮らない」ことです。
言い方を変えると「光を55%しか通さないのに、赤外線を45%も通してしまう」わけです。「徒長しやすいうえに高温対策には不十分」だけでなく「直射日光による果実の日焼けが減らない」ことになります。
しかし多くの農家が勘違いしているだけでなく、補助事業のQ&Aも勘違いしている気がします。というのも、これを危惧したJAが高温対策資材のメーカーを数社呼んで講習会を開催しているからです。
補助金まで使って栽培環境を悪化させる「遮光」はやめましょう。
「遮熱」資材は高価ですが効果あり
では、被覆資材で高温対策する方法はないのかというと、最近は良い資材ができています。それがこの記事でお勧めする被覆用「遮熱」資材の「ワリフ明涼20」になります。
この資材の特徴は、なんといっても「光を80%も通すのに、赤外線を通し難い」こと。80%も光を通すなら「かけっぱなし」が可能になりそうです。
さらに、不織布でできているのに伸び縮みし難いシートなので耐久性も高く、高価な資材ですが長く使えるのも魅力でしょう。
京都府ではトマトの養液栽培やイチゴの育苗施設などで導入が進みつつあり、万願寺とうがらしでも広がることを期待したい技術です。
*参考:可視光線透過型高温対策シート「ワリフ明涼20」(ENEOSテクノマテリアル株式会社)
被覆資材として長い実績を持つ「ワリフ」のメーカーです。
「空動扇」もいいけど「遮熱」フイルムが必要
「遮熱」資材には「POクール」など天面ビニールそのものに機能を持たせた「遮熱フイルム」もあり、中丹地域では多くの農家が導入しているようです。
しかし、天面を張り替える必要があるため栽培期間中には導入できないので至急対策したいという方にはお勧めできません。ただし、高温対策に付随して得られる「保温効果」を持つため、後作に葉菜類を作付けする方には機会を見てお勧めしたい資材です。
もう一つ中丹地域で人気なのが「空動扇」です。これは、ハウスの天面に取り付ける扇風機のような機材で「ハウス上部にたまった熱気を排出」します。
しかし、これを設置すると「遮熱資材」で被覆できず、ハウス内に赤外線が入り放題となるため、「POクール」のような
では高くつくからダメかというとそんなことはありません。「空動扇」にはもう一つの効果「強風対策」があり、とても重宝します。毎年台風の被害が出やすい地域では、高温対策とは別にお勧めしたい資材です。
なお、京野菜ハウスに高率の補助金が出るため、京都府の万願寺とうがらしでは「POクール」と組み合わせて設置する農家が多くあります。
*参考:農業用遮熱POフィルム「POクール」が農林水産省の 「みどりの食料システム戦略」に基づく基盤確立事業実施計画に認定されました(オカモト株式会社)
天面用ビニールに高温対策機能を持たせた「POクール」のメーカーです。
*参考:製品情報「空動扇solar」(株式会社クボタ)
「空動扇solar」をあつかっている会社の一例です。
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まとめ
ハウス栽培で高温対策を実施する場合、光を遮る「遮光」ではなく、赤外線を遮る「遮熱」が重要です。「遮光」する資材を使用すると、光が少なくなり生育に悪影響が出るだけでなく、防げなかった赤外線により「果実の日焼け」が発生しやすくなります。「遮熱」する資材を使用すれば、光を多く通しても、赤外線は反射して通さないため、生育へ悪影響を及ぼさず高温対策が実施できます。
“Kyoto Vegetables – Cultivation Methods for Manganji Sweet Peppers: High-Temperature Countermeasures (Part 2): Shading and Heat Insulation Are Distinct Techniques”
In greenhouse cultivation, it’s crucial to focus on “heat insulation” rather than simply “shading” when implementing high-temperature countermeasures.
Using materials that block light (“shading”) can reduce photosynthetic activity, negatively affecting plant growth. Moreover, if infrared rays are not effectively blocked, the risk of “sunscald” on fruit increases. On the other hand, materials designed for “heat insulation” allow ample light to pass through while reflecting infrared rays, preventing heat buildup without harming plant development. This approach offers an effective solution for managing excessive heat.