この記事では、「万願寺甘とう」の名称ができるまでの動きを紹介します。

露地からハウスへ
「万願寺とうがらし」の販売促進を展開するということは、産地にたいし出荷量・出荷期間の拡大が求められます。
その対応としていちばん効果的なのは、慣行の露地栽培をハウス栽培に転換し5月から11月まで長期にわたり安定した出荷を行うことでした。「宣伝しているのに売っていない」では困るからです。
しかし、その頃はまだハウス栽培の技術が未熟だったため、栽培指針づくりが早期に求められましたが、こえるべき大きな課題が3つあり研究機関に解決がゆだねられました。
(1)長期栽培にともない大きくなる株をどうコントロールするか
(2)長期の連続出荷を行うため「なり疲れ」をどう防ぐか
(3)連作になりやすいハウス栽培で発生する「青枯病」をどう防ぐか
(1)長期栽培にともない大きくなる株をどうコントロールするか
ハウス栽培では「栽培期間が4月から11月」となるため、梅雨明け後には高さ2m以上に生長し以後はジャングルのように繁茂することが予想されました。
そのため「この勢いは活かしつつ生育をコントロール」する必要があります。伝統野菜のおしとやかなイメージとは違い「万願寺とうがらし」はかなりやんちゃな野菜です。
色々な整枝法を検討した結果、2種類の整枝法「主枝3本V字整枝」「主枝1本整枝」が有効とわかりました。
「主枝3本V字整枝」は、最初に分岐した3本の茎を主枝とし、斜めに誘引するものです。分岐が2本の場合は側枝1本を追加し3本にします。
主枝の方向を互い違いに定植することで、過繁茂を抑制しつつ栽植密度を最大化できます。また、斜めに誘引することで徒長を防げます。
「主枝1本整枝」は、一番勢いのある茎だけを主枝とし、垂直に誘引するものです。
激しく徒長しますが、株間を縮めて栽植密度を上げ減収を補います。また、株間を半分にしても主枝が1本なので過繁茂にはなりません。
参考として、没になった整枝法についても紹介します。
「主枝4本」のV字整枝は、主枝を1本増やし増収をねらう露地用の整枝法です。
隣の主枝と接触しやすいため、長期栽培では過繁茂になりやすいのが欠点です。
これを避けるため、直立型のU字整枝にすると激しい徒長で減収し、株間を広げると過繁茂は防げても栽植密度が減り減収するため没になりました。
「平面整枝」は、うね上にネットを張り主枝を平面的に斜め横へ誘引していく方法です。
栽植密度が低いので収量が低下すること、徒長が激しいためさらに収量が低下することに加え、誘引ネットにより収穫作業性が悪化するため没になりました。
なおこの整枝法を最近また見るようになりました。改良が加えられ、2条植えにしてネットを斜めに張ることで栽植密度を増やしているとのこと。
しかし徒長は防げませんから、剪定・切り戻し・潅水コントロール・高温対策などの管理作業が追加され大変そうです。また収穫作業については変わらず面倒ですし、これでは収穫ロボットなどのスマート技術が導入しにくいと思います。
(2)長期の連続出荷を行うため「なり疲れ」をどう防ぐか
「なり疲れ」は一度にたくさん着果させるとおこりやすくなります。
同じ主枝3本V字整枝の京都産ナスでは「剪定」による樹勢コントロールで対応していますが、これは強勢台木「トルバム・ビガー」の使用が前提の技術です。
自根中心の「万願寺とうがらし」には向いていません。(現在の万願寺とうがらしでも弱勢台木を使用しているため剪定は逆効果です)
となると方法は「摘果」にしぼられます。強制的に果実数が増えないようにするので確実です。かといって「高く売れる果実」を摘果していたのではもうかりません。
「摘果」は適当に数を減らすのではなく「売れない果実だけ摘果」することが大切です。こんなのに養分を吸わせるだけムダというものですから。
その「売れない果実」とは次の2種類です。
一つ目は「幼果の段階で曲がりがひどい果実」です。幼果の段階で曲がりがひどいものは肥大してもまっすぐにはなりません。その形のまま大きくなります。
二つ目は「尻腐れ症の初期段階の果実」です。「尻腐れ症」は生理障害なので初期段階であっても治療できません。また障害が小さくても果実が肥大するにつれ大きくなっていきます。
この2つの摘果方法を行っただけでも、けっこういい感じに着果制限できてしまいます。これだけで出荷量に「山と谷」ができるのを抑制できます。
(3)連作になりやすいハウス栽培で発生する「青枯病」をどう防ぐか
京都府の産地づくりでは、農家1人の所有ハウス1~2棟というのが一般的でした。この場合「連作ありき」での栽培になり、様々な連作リスクが高まります。
このような栽培状況では「青枯病」が発生しやすいだけでなく、発生してしまうと代わりのハウスがなく栽培できなくなってしまいます。
この「青枯病」対策として「耐病性台木」の育成が進められました。
まず、大学から提供を受けた耐病性野生トウガラシによる育種を行いましたが、固定品種作出にはいたりませんでした。交配の手間さえクリアできればF1台木でいけそうでしたが、大きな障害がありとん挫しました。それは使用する野生トウガラシが「とてつもなく辛い」ため交配のパートさんに被害が続出したからです。
「伏見とうがらし」が「青枯病」の耐病性を少し持っていたので、伝統野菜に伝統野菜を接ぎ木する案もありました。しかし、自根で栽培すれば耐病性を発揮しますが、接ぎ木として栽培した時は耐病性が弱まってしまうという謎特性があったため、あまり普及できませんでした。
けっきょく基本が大事ということで、病原菌を持ちこまないための技術体系を耕種的防除法としてまとめました。持ちこまなければどうということはない、のですから。
なお接ぎ木による対策が始まるのは「ベルマサリ」など市販品種の登場を待たなければなりませんでした。
まとめ
生産拡大に必須のハウス栽培を普及するため研究機関は「主枝3本V字整枝」「摘果による樹勢維持」「青枯病の耕種的防除」の3技術を確立しました。
The path to “Manganji Amato” (5): Great success with V-shaped pruning. (Manganji tōgarashi 09)
To promote greenhouse cultivation, which is essential for production expansion, research institutions established three key techniques: “V-shaped pruning with three main branches,” “maintaining tree vigor through fruit thinning,” and “cultural control of bacterial wilt.”