京せり

京野菜【京せり】良質で豊富な地下水で伝統栽培、京都のすき焼きには欠かせない

 この記事では、「京せり」の概要について紹介します。「京せり」はどちらかというと伝統栽培で作る野菜なので、栽培方法に重点を置いています。(京せり02)

 野生種のセリは困った雑草ですが、京野菜の技術で栽培されると高級食材になります。濃い料理にも負けない味と香りにより、京都の伝統的なすき焼きには欠かせません。

 では、厄介者の雑草を高級食材に変えてしまう栽培技術とはどんなものなのでしょうか。その秘密には、京の都の地下を流れる「豊富で良質な地下水」が大きく関わっています。

 そして、何々の名水といった良質な地下水が出ているだけでは栽培できず、豊富な量が湧いていることが重要です。

 そのため,京都市でも南の方の下京区から南区にかけてが栽培に適している地域とされ(湧き水の多い低湿地を利活用するアイデアとも言えますが)、湛水する伝統栽培で作られるようになったのは300年くらい前のようです。(捨てづくり的な栽培はもっと前で、平安時代の文書に出てきます)
 この事情により、ブランド産地を作るだけの面積が確保しづらいのはしかたのないところですね。

*参考:JA京都市「いっぷく」vol.239
*参考:京都市産業観光局 農林振興室農林企画課 KYOTO Vege Style 野菜図鑑
*参考:水のめぐみ館アクア琵琶 ビワズ通信No.37豊かな古都の水がはぐくんだ京の伝統野菜をもとめて

品種は「お多福せり」がお勧め

 「京せり」という品種がありますから、当然その品種を用いて栽培すると「京せり」ができると思いがちです。ところが、できるのは「品種としての京せり」で「京野菜としての京せり」ではありません。

 なぜなら、普通に作っただけでは、味や香りが違う以前に「外観が大違い」だから。茎を50cm近くの長さにスラっとそろえた外観は、地面を這わせた一般的な栽培ではできません。

 では、どうしたら「京野菜としての京せり」になるのか。その秘密は栽培方法にあります。つまり、京都の「京せり」は伝統栽培で作る京野菜なのです。(昔は「京ぜり」と言いましたが今は濁点無しが一般的です)

 とはいっても、使用する品種は「伝統栽培に適した品種」でなければなりません。もちろん、在来品種の「京せり」はOKです。作り難いですけど。
 しかし、これ以外の品種ではダメというわけではなく、他にも使用できる品種が3つあり、お勧め品種はその中の1つなのです。

 こんなところは、品種ではなく伝統栽培で作る「海老芋」の最適品種が「京都えびいも2号」だったり、「堀川ごぼう」の最適品種が「滝野川」だったりするのと似ていますね。

 その3つの候補とは「お多福せり」「朝鮮せり」「山科せり」で、「京せり」栽培にお勧めできるのは1つだけ、「お多福せり」になります。

 品種について簡単に説明すると次のような感じになります。

●「京ぜり」
   京都で伝統的に用いられてきた在来系統の品種
   茎に赤みがあり、味と香りが高い
   あまり固定されていないので、柳葉や丸葉など雑ぱくな特徴を示す
   伝統栽培を作り難くさせてきた原因だったりする

●「お多福せり」
   「京ぜり」の良い点を残し、伝統栽培でも作り易く改良された品種
   伝統栽培でも作りやすいので、現在はこの品種が多く使用されている

●「朝鮮せり」
   「京せり」と違い、はっきりとした青い茎の品種(別名「青せり」とも言う)
   伝統栽培でも作りやすいが、青茎で品質が劣るのでお勧めできない

●「山科せり」
   「京せり」と「朝鮮せり」の中間的な品種
   伝統栽培でも作りやすいが、品質を嫌う人もいるのであまりお勧めできない

伝統栽培には「せり田」が必用

 「京せり」はまるまる1年かけて作ります。これは苗づくりが必要なためで、その期間が半年にもおよぶからです。

 まずは圃場の選定です。遊水池や地下水などの水利条件が良い水田を選びましょう。この水田を「せり田」と言います。
 「せり田」の水質は品質(味、香り)に影響するので、十分注意して選定する必要があります。

 特に、水質に鉄分を含でいると根が赤茶けてしまうので、水質調査も行いましょう。根は食べないのにと思うかもしれませんが、出荷する時は根付で束ねるので印象が悪くなります。
 「水菜」をわざわざ入れにくい逆台形の袋に2段に並べて入れるのは、「京都の菜っ葉は角束で振り売り」のイメージを出すため。京野菜は見た目も大事なのです。

 なお、次に説明するように、「京せり」はいきなり栽培するのではなく、まず苗づくりから始めます。
 なので、用意する「せり田」は、狭い苗床水田と広い本圃水田の2種類が必要となります。

育苗期間は半年もある

 前年からの収獲が終わる3月下旬から育苗を開始します。収獲中に選んでおいた優良株(これを「種ぜり」と言います)を苗床水田に植え付けます。「種ぜり」として選ぶ株は、草丈の短いものが良いとされます。
 苗床水田には基肥を全層施用し、代かきを行っておきます。

 植付け時に注意する必要があるのが、「種ぜり」は均一の間隔で整然と植え付けることです。こうしないと、苗が均一に育ってくれません。

 本圃10aに必要な苗床は1.5a~2aくらいが目安です。用意する「種ぜり」は1300株/a程度になります。

 育苗期間は3月下旬~9月上旬の長期となりますが、この間の水管理が良い苗づくりに大きく影響します。

 「種ぜり」が活着するまでは、水浸が浅い湛水管理「浅水管理」を行います。そして活着後も「浅水管理」としますが、湛水管理ではなく「かけ流し管理」を行います。
 これは、新鮮な水を圃場中に行き渡らせるために必要なことです。活着後は地際部からランナーが伸び、ほ場全面を覆うように広がっていきます。

 最も注意しなければいけないことは、真夏は根腐れが発生しやすいので、かけ流し管理は絶対に怠らないことです。地下水ならではの利点ですね。

本圃では深水管理

 9月に入る頃には、苗床水田全体に茎葉が広がっているので、そこから苗を収穫し、本圃での定植を行うことになります。

 本圃は、しっかりと基肥を全面散布して代かきを行います。芹というと清流のイメージがあるかもしれませんが、肥料をきちんとやらないと「京せり」の味や香りは生まれません。

 苗床と本圃の大きな違いは、あぜの高さです。苗床は「浅水管理」でしたが、本圃では「深水管理」を行うので、たっぷり湛水できるよう30cmくらいの高さにする必要があります。

一番きつい作業は催芽処理

 苗床では「種ぜり」から茎葉が伸びて広がっていますから、この茎葉を細かく切らないと苗としては使えません。しかし、ただ単に切ったのでは、定植しても新芽や新根が伸び始めるのに時間がかかり生育が遅れてしまいます。
 そこで行うのが「催芽処理」で、新芽と新根を出した苗を定植する技術です。

 苗床から根付で長いまま刈り取り、積み上げてムシロ等で覆っておきます。すると、葉や葉柄は腐ってしまい根だけとなりますが、10日くらい経つと新芽と新根が発生してきます。

 このような状態になったランナーを、芽と根を含むように切断し苗とします。この苗は定植後すぐに活着し生長を始めますから、冬が来る前に十分な生育を稼ぐことができます。

 ただし、この「催芽処理」は苗床に入ってランナーを運び出すわけですから、とても重労働なので、担い手が減っている大きな原因ともいえます。

水深を徐々に増して茎を伸ばす

 9月下旬には定植を行います。その方法は、「種ぜり」の時とは違い、計ったように植える作業ではありません。手で丁寧に植えることもしません。
 本圃は10cm程度に浅く湛水しておき、苗をばらまくだけです。もちろん均一にまく必要はありますが。

 田んぼに落下した苗は、浅水なので自重で土に接触します。そして、すでに発根していますから、すぐに根は土中に伸びていきます。

 活着するまでは、このまま「浅水で湛水管理」を行いますが、活着の兆しが感じられたら湛水量を増やしていきます。

 「京せり」の特徴は長く伸びた茎ですから、最終的には30cmくらいまでの「深水管理」とします。しかし、一気に水深を増やすと茎葉が一気に水没するので良くありません。
 水の深さは、株の生長を見ながら徐々に増加させていく必要があります。こうすることで、新しい茎が徐々に長くなり、立派な「京ぜり」に仕上るというわけです。

 なお、「水深を変化させた湛水管理」をするのですが、厳寒期は「かけ流し管理」を行うと水温を高めることができます。地下水ならではの利点ですね(2回目)。

収穫は晩秋から早春まで

 11月下旬頃には、茎が30cmくらいの長さになっており収穫が可能となります。収穫は3月中旬くらいまで可能です。

 伝統的な規格の下限45cmに生長したら根ごと抜き取ります。葉だけでなく根も丁寧に洗浄し、200gで結束するのが伝統的な荷姿です。

*栽培についてもっと具体的に知りたい方はこちら⇒京野菜【京せり】プロの栽培暦教えます

“Kyoto Seri: Traditionally Cultivated with High‑Quality, Abundant Groundwater, an Essential Ingredient in Kyoto‑Style Sukiyaki”

In this article, I introduce an overview of Kyoto Seri. Since it is a vegetable traditionally grown using time‑honored methods, the focus here is placed on its cultivation practices.